しまね留学インタビュー

2021.05.28

島根県立津和野高校 池本次朗さん

池本次朗さん

・ 埼玉県出身
・ 父の島根出張をきっかけにしまね留学へ
・「グローカルラボ」の部長を務める

池本次朗さん

「現場のリアリティ」を体験し個性を発揮
地域交流の部活動や文化祭改革に尽力した池本次朗さん

明治、大正期に活躍した作家、森鴎外が育った町である島根県津和野町。歴史的な作家を生んだ自然豊かな町にある県立津和野高校には、地域と交流することを主な目的とした「グローカルラボ」という部活動があります。部長を務めた池本次朗さん(18)は、さいたま市の中学校を卒業後、津和野高校に留学しました。2年時には文化祭実行委員として文化祭の改革を実行、3年生で生徒会長を務めたという3年間を、グローカルラボの顧問、廣田理史(まさし)先生とともに振り返ります。

インタビュー中の風景

「勉強さえできればいい」という雰囲気に疑問を抱く

――本日はよろしくお願いします。まずは地方に興味を持ったきっかけについて教えてください。

 

池本次朗さん(以下、池本さん):中学2年生の時に『里山資本主義』という本を父の書斎で偶然見つけて、読んでみました。当時は埼玉の都市部に住んでいたのですが、「地方はご高齢の方が多い」というイメージはあったものの、どんな状況にあるのか全く知りませんでした。本では、地方の高齢化比率が高く人がどんどんいなくなっている事実を、データをもとに解説しており、改めて納得しました。

 

――そこから地方に興味を持ち、しまね留学に結び付いていったということですね。

 

 

池本さん:もう一つ理由があります。中学生のころに住んでいた場所は塾がいくつもあって、周囲はほぼ全員が塾に通っているというようなエリアでした。周りは「勉強ができればいい」「良い学校に進学すべき」というような雰囲気だったのですが、ずっと違和感を持っていました。勉強が苦手だったわけではありませんが、高校生活について「勉強して、部活して、たまに遊ぶというサイクルだけで本当に良いのかな」と考えていました。

 

――そんな違和感を持っていた時に、どのようなきっかけでしまね留学を知ることになったのでしょうか。

 

池本さん:父が仕事で島根県に出張に行った際に、岩本悠さん(一般財団法人地域・教育魅力化プラットフォーム代表理事)のお話を聞く機会があったそうです。それがきっかけでしまね留学について知りました。

 

――津和野高校を選んだ理由は何でしょうか。

 

池本さん:東京で行われた説明会に参加して、島根の高校のブースを何校か回りました。最後に立ち寄ったブースがたまたま津和野高校だったのですが、そこでの勧誘が一言で言うと「必死」でした(笑)

 

――必死ですか。

 

池本さん:「津和野高校はこれからいろいろなことに取り組んでいく」「君が必要だ」ということを熱心に伝えてくださって。「おもしろそうだな」「ここなら活躍できるんじゃないかな」と感じたんです。「グローカルラボ」という部活動があるのですが、おもしろそうな体験ができそうだという期待もありましたね。入学前から入部を決めていました。

 

廣田理史先生(以下、廣田先生):私は彼の入学以前からグローカルラボの顧問をしていたのですが、彼の第一印象は「話しやすいな」というものでした。高校生というよりは、ちょっとした大人という印象ですね。グローカルラボについて、説明お願いします。

 

 

池本さん:一言で説明すると「地域と高校生を掛け合わせたときに、どんなことができるかを探る部活動」です。何ができるかを探るために自分たちで畑をやってみたり、地域のイベントを手伝ったり、自分たちでイベントを開いたりします。部員は地元の生徒だけでなく、県外から津和野高校に留学中の生徒も多いです。

 

 

圧倒的な「リアリティ」を味わったグローカルラボでの活動

 

――何がグローカルラボ入部の決め手となったのでしょうか。もう少し詳しく教えてください。

 

池本さん:「地域に出るきっかけになれば」という思いが強かったです。入学当初は「周りのことは全く知らない」という状態から始まるので、様々な人とつながるきっかけになればと考えていました。1年生のころは、畑での作業とイベントの手伝いがメインでした。地域で行われるお祭りの手伝いや、お店の出店を行いました。

 

廣田先生:竹を採りにも行っていたね。その竹を使って椅子を作っていました。

 

池本さん:地元の方のご協力で竹林に入らせていただき、竹でテントや椅子を作りました。グローカルラボの魅力の一つは、「自分たちで考えて活動できる」という点にあると思います。一般的な部活動のように「大会で優勝する」などと明確な目標があるわけではありません。「地域との関わりを持つ」という、一見するとあいまいな目的の中でやっていますが、「こういうことができるんじゃないか」と自分たちで課題を見つけて実際に取り組んでいくことは、非常におもしろい部分ですね。

 

廣田先生:新たな発想や工夫を生み出しながら生徒が自主的に行動できる部活動です。地元の大人と自然につながっていけるという点も、魅力の一つだと感じています。

 

――活動で一番心に残っているものは何ですか。

 

池本さん:津和野町で毎年7月に開催されるお祭りに出店したことです。毎年出店しており、部員が育てた野菜を使った料理を提供しています。自分たちで育てた野菜を使っているからというのはもちろんですが、「メニュー考案からお金の管理まで全ての工程を自分たちで行う」というところにやりがいを感じました。かなり複雑な工程ばかりで、「うまくいかないけど、なんとかしなければならない」という思いで取り組んでいました。最終的に完売させることができ、「やってよかった」と心から思いました。

 

廣田先生:特に1年生のころは「大丈夫かな」と思いながら部員たちを見守っていました。ついつい「それ絶対うまくいかないよね」と口を挟みたくなってしまうことも。例えば、生徒に「アルコール消毒液を買ってきて」とお願いしたら、漂白剤を買ってきたということもありました(笑)お祭りの当日、最初はあまり声が出ていなかったのですが、徐々にお客さんを呼ぶ声が出てきたことを覚えています。一日で大きく成長する姿を見るのは、とても楽しいものでした。

 

 

池本さん:実際に現場でいろいろなことを体験するのは、本当に大変です。同時に、とてもおもしろいことでもあります。お祭りに来て「買って食べる」のは簡単ですが、実際に自分たちで出店してみたらとても難しい。高校入学前の生活では感じることができなかった「リアリティ」を体験できたのは、一番の財産になっていると思います。後は、「チームでやり遂げる充実感」を味わえたことも、得たものとして大きかったですね。

 

 

生徒発信で学校が変わる

 

――グローカルラボ以外で印象に残っていることはありますか。

 

池本さん:文化祭実行委員として文化祭の改革にも取り組みました。1年生の時に行われた文化祭が、思っていたイメージと全く違ったんです。「クラスごとに教室で出し物をする」というイメージを持っていたのですが、津和野高校の文化祭は「全員が体育館に集まって着席している」というものだったんです。なんとなく「楽しくないな」と思った(笑)

 

廣田先生:(笑)

 

池本さん:「どうにかしたい」と思い、2年生の時に文化祭実行委員として動きました。実際に見直してみると、「昔からやっているものだから」ということで続いているものがたくさんありました。本当に必要なものは残しつつ、削れるものは実験的に削っていくという作業を行いました。その結果、体育館から出て教室棟で「高校生が主役のワークショップ」を行うなど、前年度と比べれば生徒が主体となって動ける形に変えることができたと思います。

 

――生徒発信で文化祭を変えていくというのは大変な部分もあったと思います。

 

池本さん:今あるものを変える場合、新しいものを緻密に作り上げていかなければなりません。「細かいところまで詰めていく」という作業をずっとやっていた印象があります。

 

廣田先生:生徒発信で行事のあり方を変えることは難しい部分もありますが、学校としても年々「生徒にやらせればいいんじゃないか」という雰囲気になってきていると感じます。直近の例では、球技大会がありますね。体育を担当している先生によると、体育委員長がすべて企画したそうです。もちろん、「ここはこらえてほしい」ということはあります。それでも、学校としてかなり変化に柔軟になっているという部分はあると思います。

 

――変化に柔軟になっている要因はどこにあるのでしょうか。

 

廣田先生:やはりコーディネーター(※1)の存在が大きいのではないでしょうか。教員だけだと、どうしても固い雰囲気になりがちですが、コーディネーターが新しいことに取り組んでいる姿を見ていると、校内の雰囲気に柔らかさが出てきます。あと個人的には、僕があれこれ言うよりは生徒に任せた方が良い形になるのではないかと思っています。次朗君(池本さん)との関係でも、「ここは絶対だめ」という部分は伝えつつ、基本的には任せていました。「だめ」と言ったことも多かったと思いますが(笑)
※1 高校魅力化コーディネーター。学校と地域をつなぐ存在として、生徒募集活動や生徒の地域活動の支援、また探究学習のサポートなどを担っている。2020年5月現在、県内に50人程度配置されている。

 

池本さん:いえ、そんなに多くなかったですよ(笑) グローカルラボでもそうですが、かなり任せてもらえたという印象が強いです。

 

 

――池本さんはグローカルラボで部長を務められていたそうですが、部活動でも自分で決めていく機会が多かったのでしょうか。

 

池本さん:そうですね。例えば、僕が2年生になったころ、地域のイベントのお手伝いをする頻度を少しだけ減らしました。もっと自分たちで主体的に動ける機会を作っていこうという考えのもとで決めたことですが、それについて何か言われるということはなかったですね。

 

廣田先生:次朗君は生徒というより顧問のような感覚ですね。グローカルラボでは毎年のように核になる人物がいます。だから僕の顧問というのは名ばかりです(笑)

 

池本さん:いえいえ(笑)

 

廣田先生:僕の中では生徒が顧問を務めているイメージでやっています。そうすることで生徒発信でいろいろなことが始まるし、一番楽しくできると思っています。もちろん「このままだと何もできない」という注意をすることはありますが、生徒たちがやりたいことに関しては「やってみれば」というスタンスでいます。

 

池本さん:グローカルラボとしてだけでなく、学校としてもそうした雰囲気になっていっていると思います。

 

 

津和野は多様性が関わり合う町

 

――「活躍できる」という期待感を持って津和野高校に入学されたわけですが、お話を伺っている限りでは実現できたのではないでしょうか。

 

池本さん:当初の期待以上にいろいろなことを体験させていただいたと思います。生徒会長も務めていたのですが、まさかそこまで任せていただけるとは思っていませんでした。

 

 

――3年間で得たものは何でしょうか。

 

池本さん:先ほども触れましたが、「現場のリアリティ」を体験できたことは大きかったと思います。「質の良い体験」がたくさんできました。繰り返しになりますが、自分が思っていた以上に様々な体験をさせていただきました。そんななかで自分が苦手なもの、逆にわくわくするものなど、自分の傾向が見えてきたことも得たものの一つです。幅のある体験ができたからこそ、見えてきたものなのではないかと考えています。しまね留学せずに勉強と部活動だけをやっていたら、見えてこなかったと思います。

 

――留学前の自分との変化を感じてらっしゃることが伺えます。

 

池本さん:中学校は学年に200人いるような規模の学校でした。当時は「その中の一人」という感覚が強かったです。大人数の中に埋もれている「もやもや感」があり、自分を肯定できずにいたと思います。中学校のころは中心で立ち回るタイプでもありませんでした。しかし、津和野では「自分はこう思っている」ということを誰かに伝えたときに「おもしろいね」と反応してくれることがたくさんありました。そんな毎日を送ることで、名前がない「生徒」から「池本次朗」になれたと思います。

 

――お話を伺っているところだと中学校の時の姿が想像できないのですが、個性を発信できる場がたくさんあったということでしょうか。

 

池本さん:そうですね。高校に入ってから色々なバックグラウンドを持った方と話す機会が増えたので、発信できる場が増えたというのは大きかったと思います。

 

廣田先生:最初の印象として「人の話がよく聞ける」「アンテナが高くて様々な分野や人に興味を持てる」という部分を感じていました。そして人とつながったら、その後も関係性を継続できている。いろいろなことを吸収できる素地があって、実際に吸収していったというイメージですね。あとは、もともと大人っぽいところはありましたが、3年時には、物事を考える際に大人の目線で考えられるようになったことを感じました。いろいろな立場に立てるようになった、というイメージですね。

 

 

池本さん:そんな実感はありませんでした(笑)その時の「縁」に身を任せて行動していたという印象が強いです。

 

――今後は進学されると伺っています。今後の展望を教えてください。

 

池本さん:慶応大学の環境情報学部に進学予定です。広い分野から自由に授業を選択できるのが特徴の学部です。津和野高校では、様々な経験を通して「自分はまだ知らないことが多いな」と感じさせられました。そこから、幅広いことを学んでおきたいと考えるようになったんです。大学で学んだことを、いつか津和野にしっかり還元したい。高校生活では自分がやりたいことをやってきましたが、津和野が抱える社会課題に目を向け、解決できるようになりたいと思います。

 

廣田先生:すごく考えているなと思いましたね。こういう考え方を持った人と出会えたというのは、僕にとっても刺激になる体験でした。生徒ではあるんですが、先生のような存在ともいえるので、改めて出会えたことに感謝したいです。

 

これからしまね留学を目指す方へ

「高校で何かやりたいな」と考えている方にとって、津和野高校は本当におすすめできる場所です。高校だけでなく、津和野という町も魅力的です。面積的には狭い町ですが、いろいろなバックグラウンドを持つ人がいるので、「多様性が詰まっている町」だといえます。津和野はその多様性を放置するのではなく、関わり合っている場所です。そんな場所でチャレンジしたいと考えている方は、ぜひ津和野で学んでほしいです。

学校情報

島根県立津和野高等学校

〒699-5605
島根県鹿足郡津和野町後田ハ12-3
TEL:0856-72-0106

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