しまね留学インタビュー

2021.05.25

島根県立吉賀高校 藤田晶斗さん

藤田晶斗さん

・ 「高校ぐらいは自分で行きたいところを選んでみよう」という思いからしまね留学に
・ 小中学校時代、広島県や埼玉県を経験
・ 「アントレプレナーシップ教育」にて、防災士の資格を取得

藤田晶斗さん

永住を考えるほど町を好きになった留学体験
学生防災士としても活動する藤田晶斗さん

キャリア教育の中心に「起業家精神」から学ぶ「アントレプレナーシップ教育(※1)」を柱に掲げる島根県立吉賀高校(島根県鹿足郡吉賀町)は、在学中の学生が積極的に社会にはたらきかける精神を育んでいます。藤田晶斗さん(17)は、高校2年生の時に防災士の資格を取得し、その知識を地域活動で生かしてきました。「卒業後も吉賀町に残り、貢献したい」と語るほど町にとけこんだ藤田さんと、入学時から同校の高校魅力化コーディネーター(※2)として藤田さんの活動を見守ってきた坂田紀之さんに、高校生活2年間を振り返ってもらいます。

※1 地域の人や東京の大学生らと協働しながら、「現実の社会を動かす」試みを行う授業。アントレプレナーシップは「起業家精神」を意味しており、「無から有を創り出す人の精神」を成長させることを目指している。吉賀町、東京のフィールドワークやビジネスプランのコンテスト、地域の大人や都会の大学生との思考実験やディスカッションなどが行われている。
※2 学校と地域をつなぐ存在として、生徒募集活動や生徒の地域活動の支援、また探究学習のサポートなどを担っている。2020年5月現在、県内に50人程度配置されている。

インタビュー中の風景

「高校生活を送る地域は自分で決める」という決意

――本日はどうぞよろしくお願いします。藤田さんがしまね留学を思い立ったきっかけを教えてください。

 

 

藤田晶斗さん(以下、藤田さん):小学校の時は広島、中学校は埼玉と、家族の転勤について回っていました。「高校ぐらいは自分で行きたいところを選んでみよう」という思いからです。

 

――吉賀高校を選んだ理由は何ですか。

 

藤田さん:いろいろな学校を調べましたが、吉賀高校の寮がある「サクラマス交流センター」は建ってから5年ほどと新しく、他校の寮にはない個室があったことが魅力でした。加えて、吉賀町は18歳までの医療費が無料など行政のサポートも手厚く、学業に専念できる環境があると思いました。

 

――明確な理由ですね。一方で不安なこともあったと思いますが、いかがでしょうか。

 

藤田さん:長期の一人暮らしは初めてのことでしたので、家事ができるか不安でした。掃除や洗濯のやり方もインターネットで調べたり先輩に相談したりなど手探りでしたが、徐々にこなせるようになったと思います。

 

坂田紀之さん(以下、坂田さん):入学間もない頃は、卵の割り方が分からないので教えてほしいとお願いされたこともあったね(笑)

 

藤田さん:家族全員の家事をしていた母の大変さが身にしみてわかりました(笑)

 

坂田さん:寮は個室ですので、自分で自分を律しなければならない環境だったと思います。朝は誰も起こしてくれませんし、夜もゲームをして終わり、ということにもなってしまいます。自分で自分の時間を決めて生活することができるようになったのは、大きく成長した部分ではないかと思います。

 

 

――しまね留学中に驚いたことは何でしたか。

 

藤田さん:春夏になると、教室のカーテンにカメムシが山ほど出るんです。授業中もどんどん飛んで来ます(笑)

 

坂田さん:(笑)

 

藤田さん:川で遊ぶこともあるのですが、そこでサワガニを調理して食べたり、橋から飛び込んで泳いだりなど、そんな遊び方を平然としている人がいるんです。「お前も来いよ」と誘われましたが、それまでの生活では考えられない体験でした。

 

 

積極的な地域活動で身につけた専門知識

 

――しまね留学前、どのようなことを期待していましたか。

 

藤田さん:中学の時、両隣の家の人と話をしたのは引っ越しの際の挨拶だけでした。せっかく留学したのですから、地域と積極的に関わろうと思っていました。入学後は、吉賀高校にある「地域クラブ」という活動を通じてさまざまなイベントに参加しました。

 

坂田さん:1年生の時に吉賀で行われた地域のマラソン大会の手伝いに来てくれたことを覚えています。「地域の活動があれば声をかけてください。全部出ます」と言ってくれました。「パンクしちゃうぞ」と思うくらい参加してくれましたね(笑)

 

藤田さん:多くの方々と知り合い、その後も関係を築くようになりました。今では気兼ねなく挨拶できるようになっています。大勢の方と知り合えたことが留学の財産です。

 

坂田さん:オープンスクールでも「お手伝いできることないですか」と自主的に動いてくれました。県外生が積極的に学校のことを紹介してくれるのは、何よりも宣伝になります。

 

――多方面で活動された中で、最も積極的になったことは何ですか。

 

藤田さん:吉賀高校には「アントレプレナーシップ教育」という教育活動があります。私は2年生の時に防災をテーマに取り組み、防災士の資格を取りました。

 

 

――防災を選んだきっかけは何だったのですか。

 

藤田さん:1年生の5月に寮の前で15棟が全焼する大規模火災がありました。その時、防災というものが自分の命に直結することを実感し、防災に関することに取り組もうと思ったのです。その後、町の防災訓練に参加して、防災士の方と知り合いました。資格について調べてみると、年齢制限もなく高校生でも取れることを知り、取得しました。

 

坂田さん:実は先日も学校で避難訓練があったのですが、最後のコメンテーターとして「防災士の藤田君」と紹介され、講評もしたんだよね(笑)

 

藤田さん:(笑)

 

 

アントレプレナーシップ教育の精神を実践する

 

――防災士になったことで、地域との交わりも増えたのではないでしょうか。

 

藤田さん:高校生でこの資格を取る方はあまり多くありません。それもあってか、新聞やテレビの取材を受けました。

 

坂田さん:彼と地域との関わりには、こんなエピソードがあります。ある日、藤田くんが白バイの警察の方と話しているのを見かけました。白バイに捕まっているように見え、慌てて道を引き返しました。どうしたのかと聞いたら、以前知り合った警察官が声をかけてくれて、「頑張っているね。新聞見たよ」と言ってくれたとのことだったんです(笑)

 

藤田さん:公民館でも「防災高校生」と声を掛けてもらうこともありました。そのほか防災関係のイベントを提案されたり、参加の誘いを受けたりするようになりました。

 

――パン作りにも挑戦したと聞いていますが。

 

藤田さん:実はこれも防災と関係があるのです。「よしかの里」という地域支援センターで缶入りパンが作られているのですが、しっとり感を保ちながら5年間も保存できるパンなんです。防災にも使えるということで売り出していたので、取材しました。

 

坂田さん:「パンを防災用品として売り出したり、被災地に送ったりできないか」ということでよしかの里にたどり着きました。よしかの里の理事長さんが、防災士である藤田君のことを知り、藤田君を巻き込んで小学生向けの防災クイズのイベントが企画されるなどしました。

 

藤田さん:「よしかの里で行う防災イベントで講演をしてくれないか」と依頼されたこともありました。イベントでパンを生地から作り、缶のラベル貼りもしました。

 

坂田さん:いろいろな方が藤田君に関わってくれたことは、彼にとっても良い経験になったと思います。

 

――吉賀高校が掲げるアントレプレナーシップ教育の精神を体現しているように見えます。

 

坂田さん:本当にそう思います。彼は小学校の防災訓練や、避難訓練でも講演のオファーを受けています。

 

――高校最後の1年をどのように過ごしたいと思いますか。

 

藤田さん:地域とのつながりをもっと広げて、町民全員と友達になりたいと思います(笑)

 

坂田さん:これから学期ごとに避難訓練があるので、藤田君に訓練をコーディネートしてもらおうと考えています。一学期は火災、二学期は地震など、決まったことをやることが多いですが、次の学期では彼が企画した避難訓練をやってみようという話をしています。

 

――今後の進路について、どのような考えがありますか。

 

藤田さん:3年生になったら吉賀町役場の採用試験に向けた準備をしようと思っています。永住を考えるほどこの町が好きで、ずっと暮らしていきたいと考えています。

 

 

――しまね留学をどのように感じていますか。

 

藤田さん:小中高と同じ町で過ごす方が多いと思いますが、それとは全く違う経験ができます。自分たちが暮らしていた町で起きなかったことが次々と起こるため新鮮です。勉強だけでなく、地域活動などたくさんの思い出を作ることができるのは、とても意義の大きいことだと思います。県外留学を考えている人には、「人生の中でめちゃくちゃ記憶に残ることやってみないか」と伝えたいです。

 

坂田さん:県外の生徒はしまね留学を通じてすごく成長していくと思います。一方で、地元の生徒も大事にしなければならないわけですが、吉賀町で育った子どもたちも県外生に刺激を受けています。「ここまでやっていいんだ」「ここまでできる子がいるのだ」と知り、ぐんぐん伸びていきますし、目新しいことに触れることができています。

 

 

藤田さん:自分とは別の県から来る県外生や地元生からも刺激をもらいながら、日々切磋琢磨できる環境だと思います。

 

坂田さん:今後は、「生徒たちが大人になるための準備をさせなくてはならない」と思っています。吉賀高校を「さまざまな立場の大人が関わってくれる学校」にしたいと動いています。アントレプレナーシップ教育も含めて、総合的な学習(※3)の中で、地域のいろいろな方が学校活動に参加してもらえればと考えています。

 

※3 令和元年度入学生から高校では「総合的な学習の時間」が「総合的な探究の時間」になった。

 

学校情報

島根県立吉賀高等学校

〒699-5522
島根県 鹿足郡吉賀町 七日市937番地
TEL:0856-78-0029

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