島根県立隠岐水産高校 斉藤千夏さん

航海士を目指して水産高校への進学を決意
気象庁の観測船に乗ることを夢見る斉藤千夏さん

「海のスペシャリスト」を目指す島根県立隠岐水産高校(同県隠岐の島町)は、全国に46ある水産系高校の中でもとりわけ長い伝統を有する学校です。大型練習船でのハワイ沖マグロ漁業など、豊富な実習が用意されているほか、様々な特殊技能を持つ教員がそろっています。恵まれた教育環境の中で生徒は学び、船舶職員やエンジニア、食品生産や水産資源の管理など、多方面の専門家として育ちます。同校海洋システム科2年の斉藤千夏さん(17)は、航海士を目指して愛知県から同校にやってきました。「年の離れた妹のように接してきた」と話す福田拓司先生、そして実習授業で斉藤さんを見守った大門伸之先生も交えながら、入学の経緯や学校生活について語ってもらいました。

挑戦に迷いはなかった

――しまね留学に挑戦しようと思ったきっかけを教えてください。

斉藤千夏さん(以下、斉藤さん):中学2年の時に見たドラマがきっかけで、航海士を目指そうと思いました。大学生の女子2人が航海士を目指す内容なのですが、船酔いをしながらも航海士になるために頑張っていたシーンが印象に残り、水産高校を目指すようになりました。最初は県外に行くということについての迷いもありました。母が島根出身で今も祖母が住んでいますが、隠岐の島に行ったことはありませんでした。隠岐水産高校に決めた理由は、実習の内容や資格取得に向けた学習環境が充実していること、そして女子寮があることなどです。学校でどれだけ充実した授業を受けられるか、充実した生活ができるかが大切だと考えていました。

福田先生:実は私も隠岐水産高校の卒業生で、船舶職員を経験した後に赴任しました。

――島と学校を最初に見た時の印象を教えてください。

斉藤さん:自然が豊かという印象でした。学校が海に近くて楽しそうだと思いました。

福田先生:学校は西郷湾の一番奥に位置しています。季節に応じた訓練ができ、道路よりも近くに広がる海のことを「第3グラウンド」と呼ぶほど、海洋水産を学ぶには素晴らしい環境があります。

斉藤さん:中学3年の夏にオープンスクールに参加したのですが、小型船舶の乗船体験をさせてもらい、入学したいという思いが強くなりました。実際に海洋に関する様々な機材を見て、「触れてみたい」と興味が湧きました。

――入学前に不安だったことは何ですか。

斉藤さん:学科に女子が少なかったことです。オープンスクールの時も、船乗りを目指す学科は女子が少ないと聞いていたので、それまでとは全く異なる環境に飛び込むことが不安でした。

福田先生:斉藤さんが在籍する海洋システム科2年生は29名の生徒がいますが、女子は1人です。やりづらい部分もあるだろうと思いながらもうまく打ち解けているので、見守っています。

斉藤さん:入学に不安はありましたが、それ以上に学びたいという思いが強かったので、迷いはありませんでした!

福田先生:笑

――寮に入られたわけですが、当初の印象はいかがでしたか。

斉藤さん:学校以外の生活面でも、時間管理など学ぶことが多くありました。食事は作っていただけますが、掃除と洗濯は自分でやります。最初はなかなか慣れず、実家で親が毎日やってくれていたことのありがたさが分かりました。寮には別学科の女子生徒が2人おり、仲間の大切さも感じることが出来ています。寮内で球技大会や鍋パーティなどのイベントがあり、先輩とも関わることができるので楽しいです。

――学校には県外生が多いのですか。

福田先生:割合でいえば4割強です。しまね留学が始まる前から、県外あるいは県内でも住んでいる校区外の高校に進学しようとする「越境生」を積極的に受け入れてきました。隠岐の島しか知らない生徒たちと県外生が話すことで、互いの文化や生活上の価値観の違いを知ることになります。「こういう世界があるのだ」と刺激を受け合う、つまり切磋琢磨できる環境だと思います。

斉藤さん:地域の特性、方言も含めて様々な新しい知識を得ました。最初は自分の方言が伝わらないことに驚きましたが……。私の地元では机を運ぶことを「机つって」と言うのですが、「え、釣る?」と釣りのマネをされました。水産高校だからでしょうか。笑いが起きました。

福田先生:いろいろな県外生がいるので、方言が混ざってハイブリッドな言葉が生まれています。笑

――楽しく過ごされているようですね。それでも当初は悩みや困難があったと思いますが、どのように克服されましたか。

斉藤さん:とにかく学内のいろいろなことにチャレンジして、周囲との関わりを増やすことを心掛けました。

福田先生:1年生の時には、なかなか周囲と打ち解けられず、居心地の悪さがあるのではないかと感じられました。当時、「まずは飛び込んでみないと何も変わらないよ」と話をしたことを覚えています。本音で話をして、その結果彼女も真摯に向き合ってくれました。そうした姿勢があって、クラスでも居場所を作れるようになり、大きく成長できたと思います。学ぶ力と吸収する力で、斉藤さんは未来を切り開いたと感じます。

ハワイ沖の実習で高まった将来への期待

――学校の授業はいかがですか。

斉藤さん:中学の時は、勉強は親に言われてするものでした。しかし、高校では専門知識を学ぶにつれて楽しくなり、分からないところも自発的に先生に聞くようになりました。漁業系が専攻ですが、座学でもゼロだった知識が増えていくことの楽しさを知りました。苦手な科目は法令です。暗記が苦手で。笑

福田先生:法令は、海洋関係の法律を学んで理解する勉強です。運航に関する根本的な知識なので大切な学習ですが、苦戦しているようですね。笑

――海洋生物と触れる学習も多いと聞きます。

福田先生:船舶が専攻でも自然相手のところがありますので、成長につながる学習です。留学してくる子にとっては新鮮だと思います。

斉藤さん:島根に来る前は生きたタコや魚に直接触れる機会がなかったので、本当に新鮮でした。

福田先生:実は斉藤さんは今日、2カ月の長期実習から帰って来たところなのです。太平洋まで行ってマグロ漁業を体験してきました。本校の学生や県内の別の水産高校生など、総勢70名ほどが同じ船に乗りました。

斉藤さん:コロナの関係で当初のプログラムと異なる内容もありましたが、乗組員の方や教官の支えもあって、楽しく実習を終えることができました。2カ月間は短く感じたくらいで、まだ乗っていたかったです。

――実習に随行された大門先生の目には斉藤さんはどう映っていましたか。

大門伸之先生(以下、大門先生):取り組む姿勢がすごく良かったと思います。自ら進んで乗組員の方に様々な質問をしている様子が印象的でした。乗組員の方も、そうした斉藤さんの気持ちに応えてくれていました。

――長期の実習ではどのようなことが大切になるのでしょうか。

大門先生:生徒たちに必ず話すことは、時間を守ること、安全に行動することです。揺れがあるなかでの生活ですので、扉を開けたままにしておくだけでも危険です。転落の恐れもありますので、そこは厳しく生徒に伝えています。

斉藤さん:時間の大切さは実感しました。5分前行動を意識するようになったのも実習の経験によるものです。また、居住部屋は同乗した浜田水産高校の専攻科の先輩と一緒で、乗船前はちゃんとコミュニケーションが取れるか心配でした。それでも、初日からたくさん話をして毎日が楽しかったので、先輩が下船したときはもっと話したかったと思うほど、乗船実習の2ヶ月間が短く感じられました。

――残り1年の高校生活をどのように過ごしたいですか。

斉藤さん:まずは資格試験に向けて取り組みたいと思います。海技士や無線免許など、3年時に取得できる資格は多いです。

福田先生:生徒によっては、ざっと10の資格取得を目指します。

斉藤さん:私も取れるだけ取りたいですが、努力が必要です。資格以外では次の進路や、その後の就職につながる経験をしていきたいと思っています。

福田先生:彼女は卒業後、夢を持ってさらに2年間の専攻科(※1)に進む予定です。1年間の乗船実習もあり、そこで船舶に携わる上での資質の部分、つまり仕事に対する姿勢や船舶職員として働く意識を磨いてほしいと思っています。
(※1)隠岐水産高校卒業後に3級以上の海技士資格の取得を目指して進学する。同校内に設置されており、修業年限は2年。


斉藤さん:今回の乗船実習を経験して、専攻科で学びたい気持ちが強くなりました。

チャレンジしないと道はひらけない

――斉藤さんのように海の世界を目指す後輩に、どのようなメッセージを伝えたいですか。

斉藤さん:ちょっとしたことでもいいので目標を作って、まずは飛び込んでほしいと思います。辛いことはどんな分野でもあると思いますが、楽しいこともあるので女子にもぜひ本校で活躍してほしいです。

福田先生:船はいまだに男性が多い世界です。しかし、自ら進んで進学してきてくれた斉藤さんが先駆者になり、後進の裾野を広げてほしいと思います。

――斉藤さんをサポートする福田先生の熱心な姿勢が伝わってきます。

福田先生:私は思ったことをストレートに伝える性分ですので、これまで相当言いたいことを言ってきました。笑 好きな趣味の話や勉強の話、仕事での経験談などを話す機会を作りました。年の離れた妹のような存在ですね。

斉藤さん:本当に本音で伝えてくれます。成長につながる内容でありがたいです。印象に残っているエピソードは…色々ありすぎて。笑

――将来の夢を教えてください。

斉藤さん:気象庁の観測船に乗りたいと考えています。先生の紹介がきっかけでしたが、自分で調べてみて気象庁の観測船は必ずしも数が多くないと知りました。だからこそ、これまでと同様に人とは違う経験ができるのではないかと感じました。チャレンジしないと道は開けないと思っています。

福田先生:本当にそうですね。飛び込むことが大事だと、私も学ばせてもらいました。

――しまね留学や隠岐水産高校を検討している中学生に、どのようなメッセージを伝えたいですか。

福田先生:商船学校の流れをくむ学校ですので、良くも悪くも船乗り気質な教員が多いです。人との関わりが希薄化している今日にありながら、愛情を持って接してくれる面倒見のいい学校です。昔ながらの雰囲気を残しつつ新しいものを取り入れていますので、まずはオープンスクールや学校見学に参加いただき、見て・触れて・知ってほしいです。学校の雰囲気をきっと気に入ってくれると思います。

大門先生:隠岐水産高校は「やりたい」という強い思いを持ってきてくれる生徒に対して、労を惜しまない学校です。熱意を持って教員も取り組んでいますし、与えられることはいくらでもあると伝えています。ぜひ、思い切って飛び込んできてほしいと思います。

斉藤さん:島根だからこそ出会える先生や地域との触れ合いがあります。「新たな一歩」を実感できると思います。

 

学校情報

島根県立隠岐水産高等学校

 

〒685-0005
島根県 隠岐郡隠岐の島 町東郷吉津2
TEL : 08512-2-1526

 

学校詳細 : https://shimane-ryugaku.jp/okisui/