しまね留学インタビュー

2021.06.28

島根県立横田高校 禎保名美さん

禎保名美さん

・ 東京都出身
・ 「親元から離れた環境で頑張りたい」という思いから
 留学を決意。
・ 現在リハビリテーションの専門学校に通う

禎保名美さん

しまね留学で失敗を恐れない勇気を持った
新しいことへの挑戦を続けた禎保名美さん

島根県立横田高校(島根県奥出雲町)は、教育目標に「心の田を耕し学徳を培う」を掲げています。「自分を変えたい」と東京から同校に入学し、現在はリハビリテーションの専門学校に通う禎(さだ)保名美さん(平成30年度卒業)は、教育目標を体現するように「心を育てる」3年間を過ごしました。かつては苦手なことから逃げていたという禎さん。しまね留学中の様々な経験を通じ、消極的な性格を変えていきました。成長の過程を見守ってきた伊藤大輔先生と、3年間のしまね留学生活を振り返ります。

※所属は取材当時

インタビュー中の風景

数々の「予想外」に直面

 

――しまね留学で横田高校に進学しようと思ったきっかけは何だったのでしょうか。

 

禎保名美さん(以下、禎さん):中学3年の春ぐらいに、テレビで島根県内のある高校のことが流れていたんです。さまざまな県外生が集まっており、楽しそうだなと感じました。もともと、高校生活は親元から離れた環境でがんばってみたいとの思いもあったので、受検を決意。でも、その高校は推薦選抜で落ちてしまいました。諦めて地元の高校に行こうと思っていた時に、「島根の別の高校でも似たような体験ができるのではないか」と母が提案してくれたんです。

 

 

――最終的に横田高校を選んだ決め手は何だったのでしょうか。

 

禎さん:もう1つの高校と迷っていましたが、学校が最寄りの駅から歩いて通える距離にあることが決め手でした。横田高校ならば、親に送迎してもらわなくても、自分で実家と島根を行き来できたんです。

 

――入学式の雰囲気や印象はいかがでしたか。

 

禎さん:すごく緊張していたことを覚えています。東京の地元と比べると生徒の数が少なく、小規模な学校だと感じました。入学式で整列していた時、みんなが急に「カメムシ臭い」と騒ぎだして。どんな虫か知らなかったので、「何を騒いでいるのだろう」と思ったのを覚えています(笑)

 

――入学式を終えて新しい生活が始まりました。

 

禎さん:地域の同じ中学校から進学してきた生徒が大半でした。周囲に「新しい友達を作ろう」という雰囲気がなく、友達をたくさん作ろうと意気込んでいただけに、少し戸惑ってしまいました。県外生は男子が3人いましたが、女子は私1人。もっと県外生がたくさんいると思っていたので、少し驚いたことを覚えています。

 

伊藤先生:横田高校はホッケー部が有名で、以前はホッケーで進学してくる県外生が多かったです。今では「島根に来てみたい」など、県外生の半分くらいはホッケー以外の目的で入学しています。

 

禎さん:実際、3年生になった時には1年生に県外生が増えていました。

 

 

自分から動く大切さを学ぶ

 

――戸惑いや不安をどのように乗り越えましたか。

 

禎さん:自分からコーディネーター(※1)の方に相談し、やりたいことがあれば積極的に動くよう心がけました。「学校に通ってさえいれば地域の人と関われるようになる」と受け身の姿勢でいましたが、自分から動かないとだめだと思うようになりました。
※1 高校魅力化コーディネーター。学校と地域をつなぐ存在として、生徒募集活動や生徒の地域活動の支援、また探究学習のサポートなどを担っている。2020年5月現在、県内に50人程度配置されている。

 

伊藤先生:教員ではない民間出身のコーディネーターの方が学校に配置されていて、学校の中と外の橋渡しをしてくれています。

 

禎さん:学校の近くにあるコミュニティースペースや、舎監として寮に来られたコーディネーターの方と積極的に話をして仲良くなりました。卒業した今でもコーディネーターの方とは時々お会いしています。

 

伊藤先生:コーディネーターの方は、寮生のことを気にかけてくれます。教員とは物事の見方が違うので、私たちも刺激を受けています。

 

 

禎さん:コーディネーターの方の支えもあり、地域や学校になじんでいきました。友達も自分の居場所も増え、学校生活を楽しめるようになったのです。うまくいかないことを学校や周りの環境のせいにしていたこともありましたが、変えたいことがあれば自ら行動しなければならないということを学びました。

 

 

2年生からはより積極的に

 

――2年生以降は学校の内外で積極的に周囲に働きかけるようになったようですね。

 

伊藤先生:私が横田高校に赴任して間もなく、入学式を手伝ってくれる生徒を2人ほど選ばなくてはならないことがありました。横田高校は初めてということもあり、「決まらなければどうしよう」と不安に思っていましたが、当時2年生だった禎さんが手を挙げてくれました。

 

禎さん:地元になじむことを一番に考えていましたが「せっかく島根にまで来たのだから心が動いたら手を挙げなければ」と思い、参加を決めました。2年生の時には生徒会に入り、文化祭の運営も担当しました。高校生活で一番学校に関わることのできた体験でしたね。2年生は2人しかおらず、先輩のお手伝いくらいしかできませんでしたが、運営することの楽しさを知りました。

 

伊藤先生:私が最も印象に残っているのは、先ほど禎さんが話していたコミュニティースペースのことです。禎さんが3年生の時に閉鎖することになったのですが、閉鎖前に彼女が学校の生徒指導部長に存続をお願いしたことがありました。

 

禎さん:コミュニティースペースを作られた方が群馬の実家に帰ることになったため、閉鎖という話になってしまって。コミュニティースペースにはキッチンがあり、高校生が地域の人と一緒にクッキーを作ったり食事会をしたりと、様々な人が集まれる場所でした。

 

伊藤先生:教員は生徒が成長する過程を見ていますが、積極的に動けるようになったとはっきり分かる生徒はそれほど多くありません。禎さんが自ら行動に移す様子を見て、成長を実感しました。禎さんの影響もあってか、今では地域に関わりたいという生徒が増えました。

 

禎さん:地域で一番大きな祭りに参加したことも思い出深いです。大変な時期に参加しようとしていたこともあり、学校と議論したこともありましたので(笑)

 

 

伊藤先生:3年生の進路を決める大事な時期で、学年主任の先生やいろいろな人と議論が起きましたね(笑) 踊りにも参加していたので土曜日にも練習があり、夜11時まで頑張っていたよね。

 

禎さん:踊りの時間が長く、振り付けも動きが速かったので大変でした。大人の方も大勢参加されていたのですが、私のために早く来て一緒に練習してくださる方もいらっしゃいました。卒業してからも踊り子として参加できたので、在学当時に参加してよかったと思います。

 

伊藤先生:奥出雲町の出身者にとっても、禎さんを通して様々な価値観や考え方に触れることができ、大きな勉強になったと思います。何事も諦めずに最後までやり遂げた姿勢は、周囲の生徒に好影響を与えていたのではないでしょうか。

 

 

しまね留学の経験から失敗を乗り越える力を身につけた

 

――寮生活にはどんな思い出がありますか。

 

禎さん:4人部屋でしたが、当時は人数が少なかったので、多い時でも3人で過ごしていました。今まで違う環境で暮らしてきた人たちとの共同生活。大変だと思うこともありました。些細なことかもしれませんが、音楽をイヤホンで聴く人もいれば、スピーカーで聴く人もいます。周りを気遣う子、一緒に聴けばいいという子と、いろいろいました(笑)

 

伊藤先生:寮生が増えたこともあり、今は暫定的に近くの専門学校の敷地内に第2寮(女子寮)ができています。第2寮では、実験的に「自治寮」として自分たちで寮のルールを決めながら運営しています。禎さんの言葉のとおり、「ここまではOK」「ここからはだめ」という線引きが難しい。人との距離感が近い人、遠い人がいて、うまくいかないという話を聞きます。

 

禎さん:本当にいろいろな考えの人がいます(笑) 集団生活では協調して行動する力が身につきました。もともと他人に注意する性格ではありませんでしたが、夜遅くまで騒いでいる人がいて迷惑だと感じている寮生がいたら、自分が気にならなくても注意しました。大変なことばかりではなく、学校が休みの日でも友達と会えるなど、寮生活ならではの楽しみもたくさんありました。

 

 

――しまね留学を通じて実感したことや成長したことは何だと思いますか。

 

禎さん:しまね留学前は、「失敗したらどうしよう」と考えがちでした。ただ、実際に行動してみると失敗しても意外と大丈夫で、想定以上のことは起きないケースが多かったです。今はアルバイトで接客していますが、昔の自分だったら人見知りな性格から接客は苦手だと考え、距離を置いていたと思います。それでも挑戦しようと思えました。失敗を乗り越える力が身に付いたと思います。

 

伊藤先生:禎さんの在学中、苦労している場面をたくさん見ました。教員はついつい結果を見てしまいがちですが、学校では結果よりも活動の過程で考えたり悩んだりすることが重要です。投げ出してしまう生徒もいるなか、禎さんは部活も授業も地域活動も、苦労しながら最後まで続けてくれました。今はリハビリテーションの専門学校に通っていらっしゃいますが、負担が大きい分野ではないかと思います。それでも、高校時代に投げ出さなかった経験が、がんばれる力に繋がっているのだと思います。

 

 

――しまね留学を考えている生徒や、在学中の県外生に伝えたいメッセージはありますか。

 

 

伊藤先生:高校にせよ大学にせよ、学校は「場所」だと考えています。入学するだけで何かが起こるのではなく、自分たちで作っていく場所なのです。県外生が「こんなことがしてみたい」と思うことが実現できる環境が整ってきていますので、チャレンジしたい方と一緒に奥出雲を元気付けられたらと思っています。

 

これからしまね留学を目指す方へ

しまね留学を決めたのは、新しいことに挑戦したい気持ちがあったからです。自分を成長させたい、自分を変えたいと思っているなら、勇気を出して来てほしいなと思います。
奥出雲町に住む地元の人の多くが、しまね留学を知らないようでした。県外生がもっと地域の人と広く繋がりを持てるようになったらいいですね。

学校情報

島根県立横田高等学校

〒699-1821
島根県 仁多郡奥出雲町 稲原2178-1
TEL:0854-52-1511

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