しまね留学インタビュー

2021.06.25

島根県立隠岐島前高校 渡邊大悟さん

渡邊大悟さん

・ 鳥取県出身
・ 隠岐島前高校の様々な取組に惹かれ、しまね留学を決意
・ 将来は自分の飲食店を持ちたいと考える

渡邊大悟さん

隠岐で得た学びを生かして故郷をもっと盛り上げたい
鳥取県から島留学した渡邊大悟さん

島根県の離島・隠岐島は、島前・島後と2つのエリアに分かれています。島前エリアの一つ、同県海土町にある同県立隠岐島前高校は、約半数の生徒が県外から入学し、多様性の生まれやすい環境が整えられています。同校では生徒の多様性を生かし、「夢探究」という生徒による地域の課題解決を図る独自の授業や、地元の漁師や農家などと交流する地域活動、海外の生徒と交流する「グローバル探究」という国際交流活動に取り組んでいます。鳥取県の中学校を卒業後、同校に留学した渡邊大悟さん(令和2年度卒業)が、地域と海外の両方で活躍した高校3年間を、高校魅力化コーディネーター(※1)の山野靖暁さんと一緒に振り返ります。

※1 学校と地域をつなぐ存在として、生徒募集活動や生徒の地域活動の支援、また探究学習のサポートなどを担っている。2020年5月現在、県内に50人程度配置されている。

全国から集まる生徒に刺激を受け「負けられない」と思える環境だった

 

――どういうきっかけでしまね留学をされようと思ったのでしょうか。

 

渡邊大悟さん(以下、渡邊さん):同じ山陰繋がりというのもあり、島根県には元々関心がありました。しまね留学を考えたきっかけは、中学生の時に父から教えてもらったことです。中学3年生の時にいろいろオープンスクールに行きましたが、隠岐島前高校の様々な取組に惹かれ、しまね留学を決意しました。

 

――しまね留学の中でも、なぜ離島にある隠岐島前高校を選んだのでしょうか。

 

渡邊さん:島外生は全寮制であり、かつ全国から生徒が集まっていることが決め手でした。島外生の人達と触れあうことで、島根にいながら全国のことを知れるのではないか、いろいろな人に出会えるのではないかと思いました。

 

――実際にしまね留学をしてどうでしたか。

 

渡邊さん:間違いなく刺激がありました。すごく尊敬できる先輩にも出会えましたし、同世代で「こんな考えを持っている人がいるんだ」と思える人や、後輩でも「この子すごいな」と思える人達に出会えました。先輩についていきたいという気持ちもありましたし、後輩にも負けてられないという思い、何より同世代が情熱を持って様々なことに取り組んでいるため、「負けられない」という良い緊張感がありました。

 

 

――入学前に不安だったり、入学後に苦労したりした点はありましたか。

 

渡邊さん:中学生の頃は自分中心で他人のことをあまり考えない性格でした。なので、寮生活など否が応でも人と接しないといけない環境で、コミュニケーションをちゃんととれるかという不安はありました。入学して最初は同級生とうまく接することができませんでしたが、寮の先輩を通じて同級生とも仲良くなれました。

 

 

隠岐島前独自の「夢探究」「グローバル探究」の活動で考え方をアップデート

 

――3年間でどのようなことに取り組んでいましたか。

 

渡邊さん:大きく3つあります。特に力を入れたのは、隠岐島前高校独自の総合的な探究の時間のカリキュラム「夢探究」の授業です。夢探究は3年間あり、2年生の時には「地域の課題を解決する」というテーマで1年通じて取り組みます。僕のいたチームと別のチームは、学校の制服規定を変えようという取り組みをしていました。通常、2年次の「夢探究」は年度末の発表会で終わってしまいますが、自分もチームに加わって3年生以降も続けていました。今となっては意義深い活動だったと思います。

 

――隠岐島前高校は制服規定が変わり、2020年6月から制服の男女の別がなくなりました。取組に渡邊さんも参加されていたわけですね。

 

渡邊さん:そうです。制服規定を変えること自体は先生方も協力的で、一つ下の2年生の理解も得られていたと思います。問題なのは、2020年4月から新しく入ってきた新入生にどう説明するかでした。僕達は、男性でも制服スカートを着用してもいいし、女性でも学ランを着てもいいように規定を変えました。同時に、新入生にジェンダー論的な意義を理解してもらう取組も進めました。

 

――「夢探究」以外ではどのような取組をしていたのでしょうか。

 

渡邊さん:「グローバル探究」という取組の一環で、2年生の夏に1週間ぐらいブータンに行きました。同級生にブータンから来ていた人がいたのがきっかけで興味を持ったんです。ブータンについて調べてみて、実際に生活の中に仏教がある国の生活や教えを感じてみたくなりました。

 

山野靖暁さん(以下、山野さん):渡邊さんと一緒にブータンに行きましたが、活動は大きく2つありました。1つは現地の高校生と一緒になり、ブータンのある地域の観光PRを映像にまとめて提案するワークショップです。もう1つは日本の生徒だけの取組で、ブータンに行く前からテーマを決め、幸福感と死生観の繋がりを探究するためのアンケートを現地でとったり、お坊さんにインタビューしたりしました。

 

 

――ブータンに行ってみてどうでしたか。

 

渡邊さん:宗教の生活への溶け込み具合が日本と全く違っていましたね。宗教が人々の心の拠り所、支えになるものなのだと実感しました。宗教をもっと信じようとなったわけではないですが、信心深い人の気持ちを理解できるようになったのではないかと思います。

 

――ブータンは「世界一幸せな国」と言われることもありますが、何が理由だと思いましたか。

 

渡邊さん:ブータンの人達は物欲に全く縛られていません。例えば、スマホを落として画面が割れてしまったとすると、僕はずっと引きずってしまいます。でも、ブータンの人達だと「まあいいか」となるんですよね。「物はいつか壊れるし、人はいつか死ぬ」という考え方からなのですが、日常の考え方が死生観にもそのまま現れています。

 

 

 

地域との繋がりがそのまま就職に結びついた

 

――隠岐島前高校で頑張った取組の最後の1つも教えて下さい。

 

渡邊さん:漁や農業を手伝ったりする地域活動です。卒業後は隠岐島の民宿で料理人修行をする予定です。なので、僕の地域活動はこれからも続くというイメージですね。

 

山野さん:渡邊さんは在学中から積極的に島の人々と関わっていました。就職先の民宿だけではなく、それ以外でも漁師さんや農家の家に出かけて、手伝いをすることが多い生徒でした。地域の活動にも精力的に参加しつつ、ブータンをはじめとする海外の活動にも積極的に取り組む生徒でしたね。

 

――山野さんはコーディネーターとして、渡邊さんのような島外出身の生徒と、地域の方を繋ぐ取組を進めているのでしょうか。

 

山野さん:島の外から来た生徒には、自分だけでなかなか踏み出せていけなかったり、きっかけが掴めなかったりする生徒が少なくありません。一歩を踏み出せない生徒さんに対し、「一緒に行かないか」といった感じで働きかけていく取組をしています。

 

――渡邊さんも山野さんが手助けしたのでしょうか。

 

山野さん:いえ。渡邊さんは僕がいなくても自分で繋がりにいっていたので、あまり出番はありませんでしたね(笑)彼の場合は、先輩から声をかけられたりとか、寮にいるサポートメンバーに連れて行ってもらったりとか、僕以外の繋がりを生かしていろいろな人と繋がっていきました。

 

 

渡邊さん:就職先も、先輩の繋がりから自然と決まりました。民宿で「大将」と呼ばれる主人に3年間ずっとお世話になっていたのですが、大将は寮の先輩の島親(※2)にあたる方でした。3年生になって本格的に料理人になりたいと思い、大将のところに相談しに行ったら、そのままインターンという形で働かせてくれました。
(※2)「島親」:隠岐島前高校の島留学生一人ひとりにつく、島民によるサポーター

 

 

ふるさとに活気を与えられるお店を開きたい

 

――地域活動がそのまま進路に繋がりましたが、将来はどのように考えていますか。

 

渡邊さん:将来は、故郷の鳥取県湯梨浜町で自分の飲食店を持ちたいと考えています。将来のため、今は民宿で大将のもとで料理修業に専念する予定です。単に飲食店をやるだけでなく、故郷に活気を与えられるようなお店を絶対に開きたいと思います。隠岐に来て身に付いた考え方です。

 

 

――なぜそう思ったのでしょうか。

 

渡邊さん:僕の故郷の湯梨浜町は過疎化が進んでいて、潰れていく農園などが多い。隠岐に来るまでは、「仕方がない」としか考えていなかったのですが、隠岐に来たら「何とかなる」と考え方が変わりました。海士町では、「ないものはない」という言葉を合言葉にしているのですが、ある種の開き直りというか、何もないことをアピールポイントにしてPRしていたんです。

 

――隠岐での経験が、ふるさとを盛り上げるという考え方に結びついたのですね。

 

渡邊さん:もちろん「夢探究」や地域活動などによって、地域との繋がりを常に意識するようになったことが大きいです。僕の故郷にも様々な問題があると痛感しました。将来を考えるときも、自分の将来だけでなく、街や地域の将来もセットにして考えるようになりました。隠岐に来ていなかったら、地域の問題を意識せずに単に「地元でお店を開きたい」だけだったと思います。

 

――最後に、隠岐に残ろうと思ったきっかけや思いを教えてください。

 

渡邊さん:高校の3年間では、地域活動の拠点と寮が離れていて、まだまだ島でやりきれなかったことがたくさんありました。3年間の後悔みたいなものがあります。料理修業として3年は隠岐にいると思いますが、留学生ではなく島の住民として見る景色はまた違うと思います。隠岐での自分はまだまだこれから、まだ終わってないという思いです。

 

学校情報

島根県立隠岐島前高等学校

〒684-0404
島根県 隠岐郡海士町 福井1403
TEL:08514-2-0731

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