しまね留学インタビュー

2021.07.13

島根県立津和野高校 堀田結子さん

堀田結子さん

・ 茨城県出身
・ 母からの提案で津和野高校へ

堀田結子さん

“短所”が“長所”だと気づかせてくれた津和野という町
多角的に考える力を身につけた堀田結子さん

「山陰の小京都」と呼ばれることもある、島根県津和野町。幕末の津和野藩内の様子を描いた「津和野百景図」が文化庁の「日本遺産」の認定を受けるなど、歴史と文化にあふれる町です。町の風景に惹かれて県外から移住する人も多く、多様な考え方を受け入れる素地のある地域といえます。茨城県から県立津和野高校に留学した堀田結子さん(令和2年度卒業)は、津和野で過ごすなかで自分の“短所”だと感じていた部分が“長所”だったということに気づかされたと語ります。「多角的に考える力」を身につけたという3年間を、そばで見守ってきた津和野高校の高校魅力化コーディネーター(※1)、山本竜也さんとともに振り返ります。

インタビュー中の風景

「行けば何か変わる」環境を変えようと留学を決意

――本日はよろしくお願いします。
まずは堀田さんが津和野高校に留学するに至った経緯を教えてください。

 

堀田結子さん(以下、堀田さん):留学前、1年生の夏ぐらいまで東京の高校に通っていたのですが、冬に自主退学しました。当時は自宅から毎日1時間半ほどかけて学校に通っていました。進学校のため勉強も忙しく、少しずつ疲れが溜まっていくのが億劫になってしまい…。学校に行かなくなり始めた秋ごろから「何か変えたい」と思っていたんです。そんなときに母から「山村留学してみないか」と声をかけられ、留学について考えるようになりました。

 

――なぜ津和野高校を選んだのでしょうか。

 

堀田さん:留学前に見学した際、地域の方々との距離の近さを感じました。そこに魅力を感じて入学を決めました。両親も一緒に見学したのですが、津和野高校をとても気に入ってくれました。津和野高校を見学したときに、やまたつ(山本竜也さん)が対応してくれたことをよく覚えています。

 

山本竜也さん(以下、山本さん):そうだったね。僕も記憶がよみがえってきました(笑)

 

津和野高校のコーディネーター山本竜也さん

 

「HAN-KOH(はんこう)」という町営の英語塾

 

――少し話がそれますが、山本さんのことを「やまたつ」と呼んでいるのですね。

 

山本さん:津和野高校ではコーディネーターに「さん」を付けないんです。コーディネーターと生徒は、縦ではなく「ななめ」の関係にあるので「さん」は付けないという方針です。

 

堀田さん:生徒とコーディネーターの距離は近いと感じます。

 

山本さん:最初に会ったときに、彼女のお父様から「津和野高校は海外留学に行けますか」と聞かれたことを覚えています。「英語に強い興味を持っているんだな」と感じましたね。後は、自信がなさそうに見えたかな。

 

堀田さん:当時は自信があったわけではなかったと思います。それでも「(しまね留学に)行けば何か変わるだろう」という思いはありました。環境を変えたいという思いが強かったですね。また、前の学校にいるときも、海外留学したいという気持ちは持っていました。海外留学につながるかどうかも、高校を選ぶ基準の一つでした。

 

山本さん:津和野高校には「HAN-KOH(はんこう)」という町営の英語塾があり、海外留学に向けてのサポートも行っています。HAN-KOHの存在もあり、毎年各学年で1人以上が、1年間海外留学しています。

 

――津和野の雰囲気、海外留学に向けたサポート体制の充実もあり入学を決められたと思うのですが、不安はありませんでしたか。

 

堀田さん:全く知らない場所ということで友人を作れるかという不安もありましたが、誰とも話さないのは辛く感じる性格なので、入学式の時に積極的に話しかけました。

 

――知らない土地で積極的に話しかけるのは勇気のいる行動だと思うのですが、津和野高校自体が多様な人物を受け入れる素地があるのでしょうか。

 

山本さん:堀田さんの2学年上ぐらいから、毎年10人以上県外生が入学してくるようになりました。津和野高校の一つの特色として、地元から進学してくるのは1学年20人程と、それほど多くない点が挙げられます(2020年5月時点で全校生徒187人)。県外から入学してくる子が多く、教室はいろいろな地域の方言が飛び交っていますよ(笑)

 

堀田さん:私が最初に話しかけた子が島根の子だったのですが、方言に驚いたことを覚えています(笑)本当にいろいろなバックグラウンドを持った人が集まっています。

 

 

 

積極的な友人の姿に衝撃を受ける

 

――山本さんは堀田さんに対しどんな印象を持っていましたか。

 

山本さん:1年生の時はそんなに接点はなかったのですが、ほかの先生方に聞いていた情報から「自分から発言するタイプではないのかな」と想像していました。あとは一つ疑問を持つと、その疑問についてこだわりが強くなるということ。授業中でも疑問が浮かんだら気になってしまって、内容が入ってこない。そう感じていたけど、どうかな(笑)

 

堀田さん:そうですね。分からないところがあると気になって進めなくなってしまいます(笑)

 

――入学式の時に積極的に話しかけたというエピソードからすると、「自分から発言するタイプではない」というのは意外な印象を受けます。

 

山本さん:大人に対して自分から発信しないというイメージですね。やりたいことを発信するようになったのは2年生になってからじゃないかな。

 

堀田さん:そうですね。1年生の時は、友達の「こんなことをやりたい」という話を聞く側でした。その時は、まだ自分の中で勉強の優先順位が高く、「地域でこうしていきたい」という思いはあまりなかった。やりたいことがはっきりしていなかったんですね。そんななか、友人が次々とチャレンジしていく姿に、刺激を受けるとともに戸惑いも感じていました。

 

――戸惑いですか。

 

堀田さん:私が一番影響を受けた友人がいるのですが、その子は入学して数日で「これがしたい」と先生に直接伝えていました。そんな姿を見て「何かしたい」と思う一方で、何をすればいいか分からなかった。

 

山本さん:その子のことは私も知っています。「高校生と大学生がコラボしたミュージカルを津和野でやりたい。だからお金を出してくれ」という要望を出したんです。入学式から3日目の話です。驚きましたが、「とりあえずやってみれば」と。津和野高校においては普通の出来事です(笑)

 

堀田さん:自分の中では衝撃的な出来事でした。「アクション起こせるのがすごいな」と。何も分からない状況なのに、なぜそんな行動を起こせるのか、ただただ驚きでした。

 

山本さん:生徒が「こういうことやりたいんです」と言うと、「勉強をがんばれ」というのが一般的だと思うんです。でも、津和野高校では「こういうことやりたいから人手が欲しい」「とりあえずやってみれば」という会話が日常的に行われています。学校としても「地域に学校がある意味を問い直す」という姿勢なので、一般的な高校とはイメージが異なるかもしれません。

 

堀田さん:留学1年目は、生活に慣れることと、衝撃的な出来事に戸惑う日々で振り返ると少し不安定だったかもしれません。

 

 

 

挑戦していくなかで「自分を許せるようになった」

 

――戸惑いが解消していったきっかけは何でしょうか。

 

堀田さん:「総合的な学習の時間(※2)」の授業が大きかったと思います。1年時は地域の文化や歴史について学んだり、地域の方と交流したりといったことを行いました。
※2 現在は「総合的な探究の時間」。一般的な教科・科目とは別に、実社会・実生活に根差した学習、フィールドワークなどを行う授業。具体的な授業内容については各高校で策定されている。

 

山本さん:印象的な体験は何だった?

 

堀田さん:煎茶体験です。県の登録有形文化財にも登録されている町屋で行われたのですが、その歴史に心惹かれました。その時に歴史についてお話しいただいたのですが、とてもおもしろいと感じ、休みの日にお話しいただいた方に個人的にインタビューに行きました。

 

山本さん:休みの日に気になることについてお話を聞きに行ったり、気になる場所に遊びに行ったり。これは津和野高校の生徒の一つの過ごし方でもあります。

 

 

堀田さん:2年生の時の総合的な学習の時間では、地域のために自分ができることに取り組むプロジェクトを進めました。私のプロジェクトは、「源氏巻プロジェクト」といって、津和野の伝統的な和菓子である源氏巻に関するものです。源氏巻の魅力を伝える手書きのマップを作成しました。

 

――なぜ源氏巻に関するマップを作ろうと思ったのでしょうか。

 

堀田さん:源氏巻はあんこを使ったお菓子なのですが、実は私はあんこが苦手で(笑) でも源氏巻をきっかけに、あんこが好きになって、和菓子も食べられるようになりました。私が体験したように、多くの人に源氏巻の魅力に気付いてほしいと考えたんです。でも、源氏巻の魅力を伝えるツールがないことに気づき、プロジェクトを始めることになりました。

 

 

――マップ作成に当たって苦労した点はありますか。

 

堀田さん:当初は私を含め2人で進めていましたが、途中から私1人になりました。津和野には源氏巻のお店が9軒あります。2人がかりでも、お店へのインタビューや食べ比べに苦労しました。手書きマップなので、作業量も多かった。受験の時期も作業を進めていたのですが、1人になってからは作業を分担することもできず大変でした。

 

山本さん:苦労したけど、最終的にはちゃんと成果になったよね。

 

堀田さん:取り組みがテレビのニュース番組で取り上げられたのですが、それを見てくださった地元の旅館の方から「マップを取り扱いたい」と問い合わせをいただきました。最終的には、マップを旅館の全部屋に置いてくださることが決まり、本当にうれしかったです。

 

――かなり手ごたえを感じた取り組みだったように思えます。

 

堀田さん:地域の方はもちろん、様々な人たちとつながれたことも大きな収穫でした。高校生のプロジェクトを発表する場があったのですが、私のような取り組みをしているほかの高校生たちと交流できました。

 

 

――1年生の時は大人と関わることに難しさを感じていたと思いますが、自分自身で変化や成長は感じましたか。

 

堀田さん:今までマイナス面と感じていたことを、プラス面と捉えることができるようになったと思います。私は細かいところを気にする性格ですが、源氏巻マップを作るうえでは、それが「見る人たちにとって最適な形は何か」というこだわりにつながりました。自分の性格が良い方向に作用したと思います。津和野の人たちは、それぞれ持っている性格を否定することなく、肯定してくれます。そんな環境にいることで「自分を許せるようになった」と感じています。これが一番の変化、成長だと思います。

 

 

 

今を変えたい人へ

 

――卒業後は進学されると伺っています。

 

堀田さん:ICU(国際基督教大学)に進学します。将来的には、LGBTQに関して学びたいです。また、自分の性について悩みを抱える方たちの支えとなれるコミュニティーを地元の茨城県に作りたいと考えています。

 

――LGBTQについて関心を持ったきっかけは何だったのでしょうか。

 

堀田さん:入試の時期にLGBTQに関する本を読み、「もしかしたら自分が加害者になっていることもあるかもしれない」「もっと勉強しなければならない」と感じました。ICUにはジェンダー・セクシャリティ研究という分野があり、大学構内にもジェンダーレスのトイレがあります。学びの場として最適だと感じました。

 

山本さん:私は進路サポートも担当しているのですが、堀田さんはなかなか進路について決めきれなかった。先ほども言った通り、疑問に思ったりこだわったりする良い部分はあるのですが、当初はその良い部分を進路選択につなげることができていなかった印象があります。それでも、「不公正を許さない」や「違和感を表明し続ける」というのが彼女のコアの部分であり、考え方の原動力となっている。最終的には、そこが彼女の進路につながったのではないかと思っています。

 

堀田さん:「どうすればいろいろな人たちにとって良い形になるのか」と自分が感じた疑問を突き詰めることが、ジェンダーについて考える原点になっています。2年生の時にフィリピンに留学に行ったことも、考え方を深めることにつながりました。現地でごみが積まれている景色を見て、「どうすればごみをなくせるのだろう」と頭を悩ませましたが、帰国後に「本当になくしてもいいのか」と考えるようになりました。現地にはごみを拾うことで生計を立てている方もいらっしゃる。ごみをなくすことは、その方々にとっては良いことではないと気づいたのです。

 

――堀田さんは物事を様々な視点から見ることを大切にしているように見えます。

 

堀田さん:HAN-KOHでは英語の授業だけでなく、難民の方と話す授業もありました。そこで感じたことを、やまたつやHAN-KOHのスタッフさんといった大人の方にぶつけてみました。そのたびに「こんな見方もあるんじゃないか」とアドバイスをくれます。そういう経験を通して、多角的に見る力が伸びていったのではないかと思います。

 

――自分の長所を伸ばすことができた3年間だったと思いますが、津和野高校で楽しめた理由について教えてください。

 

堀田さん:学校に一度行かなくなってしまうと、「置いてきぼり」のような状態になってしまいがちです。実は津和野高校でも浮き沈みがあり、登校しなくなることも少しあったんですが、登校すると友達は「久しぶり。待ってたよ」と気軽に声をかけてくれます。来ない時期があるから「不登校」ではなくて、「気持ちの整理期間」と周囲が思ってくれるため、安心感がありました。津和野高校はいろいろなバックグラウンドを持った人がいて、お互いを認め合う環境があります。「不登校」と聞くと「触れてはいけないもの」というイメージがあると思いますが、津和野高校の場合は良い意味で「人と変わっているところ」に興味を持ってくれる。3年間楽しめたのは、この環境が一番大きかったと思います。

 

山本さん:津和野高校には、いろいろな個性を持った人たちが集まってきます。そして高校だけでなく、津和野の町もその個性を受け止めるだけの環境が整っています。やりたいことを言っても「無理だよ」とは絶対に言いませんし、冷やかされるということもありません。周りが挑戦する姿に刺激を受けて、挑戦を始めることで自分のことを再発見できる。堀田さんのように、ネガティブだと感じる部分をポジティブに捉えることができる場所だと思います。

 

これからしまね留学を目指す方へ

今の自分の状況を少しでも変えたいと思っているのであれば、津和野高校の「他者を認め合う」という環境に身を置くのも一つの手段です。全国にはたくさん高校があります。たった一つの環境でうまくいかなかったとしても、別にいいのではないかと思います。地域の伝統文化や、自然に触れながらいろいろな体験がしてみたいと思っている方は、ぜひ津和野高校に来てほしいです。

学校情報

島根県立津和野高等学校

〒699-5605
島根県 鹿足郡津和野町 後田ハ12-3
TEL:0856-72-0106

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