地元生インタビュー

2021.06.01

島根県立江津高校 井上皓貴さん

井上皓貴さん(平成31年3月卒)

・ 島根県出雲市出身
・ 水球部の部員募集のパンフレットをきっかけに江津高校へ
・ 現座、成蹊スポーツ大学3年

井上皓貴さん

応援してくれる方の思いを胸に水球に打ち込んだ3年間
ひたむきな姿勢で学校に変化をもたらした井上皓貴さん

島根県立江津高校(島根県江津市)には県内唯一の水球部があり、県外からも部員が集まります。びわこ成蹊スポーツ大学3年の井上皓貴さん(平成30年度卒業)は、江津市から片道70キロ以上離れた出雲市から江津高校への進学を決意。遠方から通学を続けていたことが、水球部専用の寮誕生にもつながりました。現在も大学で水球を続ける井上さんを中学時代にスカウトし、水球部の顧問として指導した田中貴士先生とともに、3年間を振り返ってもらいました。

インタビュー中の風景

競泳選手から水球選手へ、しまね留学で新たな挑戦

 

――江津高校に入学するに至った経緯を教えてください。

 

井上皓貴さん(以下、井上さん):競泳に取り組んでいた中学時代、参加した大会の会場で水球部の部員募集のパンフレットを目にしたんです。球技をやってみたいという思いがあったので、連絡先として掲載されていた島根県水球クラブに電話しました。その後、先生方が中学校まで勧誘に来られたことが、江津高校へ進学するきっかけになりました。

 

田中貴士先生(以下、田中先生):井上さんに最初に会ったのは、中学校へ勧誘に訪れた時だと思います。当時、私は島根水球クラブでジュニア(小学生・中学生)のコーチをしていたのですが、江津高校に赴任することになっていました。「ぜひ一緒に水球を盛り上げていきましょう」という話をしました。

 

 

井上さん:「水球はまだ人口が少ない競技だけど、これから島根で水球を盛り上げていきたい」というお話を伺いました。水球への気持ちが強くなり、田中先生のビジョンに自分も関わることができれば、と思いました。

 

田中先生:初めの印象は「礼儀正しい子」でしたね。競泳で全国大会に行くレベルの選手でしたので、トップの世界を知っている選手らしい、しっかりとした言動の生徒という印象でした。

 

――遠方への通学に不安もあったと思います。

 

井上さん:田中先生以外に知り合いがいない場所で、新しい生活を始めることに不安もありました。でも、やったことがない競技を始める楽しみの方が大きかったです。田中先生をはじめ、周囲の方が水球を頑張れる体制や環境を作ってくださっていたことに応えたいと感じたんです。また、両親が応援してくれたことも大きな後押しになりました。新しいチャレンジは両親にも負担がかかると思っていましたが、「気にせずやって、だめだったらだめで次を考えればいいから」と、快く送り出してくれました。

 

 

――入学式で印象に残ったことを教えてください。

 

井上さん:1クラス40人の2クラスと、生徒の人数が少なく、小規模だと感じたことを覚えています。後は、校舎から見える綺麗な景色が印象的でした。山の上にある学校から見渡せる海が素晴らしかったです。

 

 

3年間の頑張りが学校に寮を作るきっかけを生んだ

 

――田中先生宅で下宿しつつ、実家から通学する日々を続けられていたそうですね。

 

井上さん:はい、田中先生のご自宅には週に2、3日お世話になっていました。

 

 

田中先生:出雲から通学する生活について、「3年間もつかな」という不安がありました。そこで、遅くまで練習する日は私の家に下宿してもらうことになりました。実は私が高校生だった時も、前任の先生が部活生を下宿させてくださっていたのです。

 

井上さん:電車の本数が少ないのには困りました。1本乗り遅れると次の電車まで1時間ぐらいあります。乗車時間は1時間半から2時間もあります。コンビニは駅の近くに1つありますが、2つ目は歩いて行けない距離でした。

 

――生活のリズムに大きな変化があったわけですね。

 

井上さん:中学時代はクラブチームで練習していたので、学校の部活動になじみがありませんでした。高校では朝早く起きて電車に乗り、授業が終わったらすぐに部活が始まり、午後7時ぐらいまで続きます。先生のご自宅に下宿する時は先生の家に行き、実家に帰る時は長い時間をかけて帰るため、とにかく1日が長く感じました。

 

 

――水球部に入部した当初はどのような気持ちで過ごしていましたか。

 

井上さん:何をどうすれば良いか全く分からない状況でした。域外や県外から水球部に入部した生徒は僕だけ。先輩もいませんでした。自分だけ水球の未経験者ということもあり、不安になったこともあります。それでも、周囲が新入生を受け入れる体制を作ってくれていたこともあり、そこまで悩まずにすみました。

 

田中先生:井上さんが人生を懸けて出雲から通って来てくれているので、しっかりとフォローすることを心がけた記憶があります。

 

井上さん:中学生までは積極的に周囲にアドバイスを聞く方ではありませんでしたが、分からないことがあれば、とにかく先生や同級生に聞きました。自分が知りたいこと、確認した方がいいと思うことは何でも聞いて、「こういうことなんだな」と理解する作業が多くなりました。

 

田中先生:本当に3年間、よく頑張ったと感心します。

 

井上さん:朝早く起きて電車に長時間乗って――という通学が本当に辛かったです。雨の日などは特に(笑)辛さを乗り越えられた原動力は、「明日も水球をするぞ」という思いでした。早く寝て、次の日に備えるという心構えでいました。

 

 

――今では水球部の生徒を対象にした寮ができました。

 

田中先生:まさに井上さんの功績です。彼が出雲から頑張って3年間通ってくれたことで、寮を作る機運が高まりました。「練習時間よりも通学時間の方が長いのはあり得ないだろう」という議論が起きましたから。学校と地域が一体となって寮の話が進み、2019年から江津工業高校との共同運営が始まりました。

 

井上さん:3年間頑張って通った甲斐がありました(笑)水球をする後輩が続いていることが嬉しいです。多くの部員で島根の水球を盛り上げてほしいです。

 

 

他人の考えに気づける力、継続する力を培った

 

――部活での転機や印象に残っている体験を教えてください。

 

井上さん:1年生の6月に県の予選大会に出場しました。対戦相手はインターハイでベスト4まで進んだ強豪校でした。試合は完敗。水球は厳しいスポーツだということを実感し、取り組む意識が変わったことを覚えています。

 

 

田中先生:井上さんが1年生だった9月、全国大会の予選で1点差で負けて全国大会を逃し、チーム全体が落ち込みました。井上さんも本当に悔しい思いをしたのでしょう。チームの一員としての意識が一層高まり、チーム全体を引っ張っていく存在になるきっかけとなりました。

 

井上さん:試合以外のことですが、高校3年の春に田中先生からすごく怒られたことが印象に残っています。適当なプレーをしたことが原因でしたが、「そんなことで大学で水球を続けられるのか」と喝を入れられました。

 

田中先生:自信を持てていない姿があった1年生の時も、叱咤激励をする意味でいろいろなことを言わせてもらいました。プライドもありますので、最上級生を叱るのは難しいところもあります。その点、彼は本当に素直に聞いてくれました。だからこそ、今も大学の水球部で活躍できているのだと思います。

 

井上さん:先生の叱咤激励があったからこそ、1つ上のレベルに成長できたと感じています。今思えば、優しい気持ちがあっての喝だったなと。

 

 

――3年間の生活で成長できたこと、強く感じたことを教えてください。

 

井上さん:部活では辛いこと、負けて悔しかったこと、さまざまな経験ができました。先生のご自宅で下宿させてもらったことで礼儀を学び、他人の僕を一生懸命に応援してくださる方に感謝しました。そうした体験を通じ、人間性が豊かになったと感じています。

 

田中先生:井上さんにはコーチングの才能があると思っています。「自分自身が上手くなってチームを強くする」というよりは、「チームが抱える問題や課題を周囲に伝え、チームメートがそれらを改善することで自分にも好影響を与える」という能力です。彼が高校2年生の頃に、そういう力を持っていることに気がつきました。井上君には選手を引退したら水球を終えるのではなく、コーチング能力を磨いて指導者を目指してほしい。そんな期待も持てた3年間でした。

 

井上さん:高校3年間で、チームメートをはじめ、周りの人がどのようなことを考えているか、どのような気持ちでいるかということに敏感に気づけるようになりました。継続する力も培いました。遠距離通学や先生宅での下宿、水球部での活動など、3年間継続したということが今でも原動力になっています。高校3年間で継続して努力できたことが、大学でも水球を頑張れる糧になったと思います。

 

 

役割と責任が明確になっている学校

 

――江津高校や、その周囲の環境が与えてくれた影響はありましたか。

 

井上さん:江津高校の水球部は必ずしも大所帯ではありません。その分、一人ひとりの役割は大きくなります。役割と責任が明確に与えられますので、いつまでも「遠方から来たお客さん」のままではいられません。それは部活以外の学校生活でも同じで、生徒の数が少ないからこそ個々人の役割がしっかりしていたと思います。自分がさぼっていたら周りにも迷惑になるし、逆に自分が頑張れば周りにも良い影響を与えられる環境が江津高校にはあると思います。

 

田中先生:小規模だからこそ、責任や役割が必然的に回ってきます。また、「田舎でマイナースポーツをやること」に意義があります。マイナースポーツは公的な支援を受けやすいという利点があります。支援を受けながら、少人数のなかでがんばることで主役になれる場面が増えるんです。数学で「マイナス×マイナス」はプラスになりますよね。

 

 

――今後、「しまね留学」を通じて他県や遠方から江津高校へ進学を検討されている方にメッセージをお願いします。

 

田中先生:繰り返しになりますが、小規模高校ですので大規模高校に比べて教員の目が行き届きやすいところが魅力だと思います。また、小規模だからこその利点だと思いますが、物事が動きやすく、動いたらなかなか崩れません。少人数だからこそ提言しやすい環境があります。

 

 

これからしまね留学を目指す方へ

寮の施設も充実して、僕が在学していた頃よりも良い環境があります。水球部でいえば、学校ではプールを使う部活は水球部しかないので、いつでも練習ができます。冬場は練習場所が限られるなどの障害はありますが、江津市には水球の大会が行われる大型のプールもあるなど、充実した環境があります。田中先生の言葉通り、少人数だからこそ自分の役割が明確に現れ、充実した高校生活が送れると思います。私自身も将来は島根県の教員となり、遠方出身者でも水球に取り組めるようサポートしたいと考えています。

学校情報

島根県立江津高等学校

〒699-1251
島根県 江津市都野津町 293
TEL:0855-53-0553

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