島根県立隠岐島前高校 井上佳奈さん

相手の価値観を認め自分の意見をはっきり伝えられるようになった
北九州市から島留学した井上佳奈さん

1学年生徒50人の約半数を県外生が占める、島根県立隠岐島前高校(同県海土町)は、島根県の離島・隠岐島で「島留学」を前面に打ち出しています。生徒の多様性が尊重され、島外生と島内生が一緒になって地域の課題解決をする「夢探究」という独自の授業を設定。生徒の多様な価値観の育成に貢献しています。井上佳奈(令和2年度卒業)さんは、北九州市の中学校を卒業し、同校に留学。寮生活や部活動など、充実した3年間を過ごしました。3年次の担任だった長船将太先生と、高校3年間を振り返ります。

自然が豊かな島で生活してみたいと思った

――どういったきっかけで「しまね留学」に興味を持たれたのでしょうか。

井上佳奈さん(以下、井上さん):中学1年生ぐらいから「自然が豊かな島で生活してみたい」と考えていました。私のいた中学校には長崎県の島留学のポスターが貼ってあったのですが、それで島留学の存在を知りました。

――そこからしまね留学に興味を持たれたのでしょうか。

井上さん:その島留学は、国際交流のおもむきが強かったので応募しませんでした。しまね留学を知ったのは中学2年生の時です。実際に隠岐島前高校にも見学に訪れ、在校生の先輩にいろいろ教えていただきました。自分の学んだことを誇らしげに語る姿がかっこいいと思い、留学を決めました。

――実際に留学されてどうでしたか。

井上さん:隠岐島前高校は半分ぐらいが県外生で、私以外にも全国からのしまね留学生がいました。全国のさまざまな人達と同じ寮で生活した経験は大きかったです。私は物事を「正しい」「正しくない」で考える傾向がありましたが、島での3年間で変わったと思います。以前は「自分と違う意見だから間違っている」と考えることもありましたが、今では相手の考え方が自分と違ったものであっても認められるようになりました。認めた上で、「自分はこうしたい」ということを伝えられるようになったと思います。

――価値観の多様性を認められるようになったとも言えますが、何がきっかけとなったのでしょうか。

井上さん:寮生活では、点呼の際に自分が思ったことを言う習慣があります。寮内で挨拶をしない人が多いという問題があったため、「当たり前なことをやっていきましょう」とみんなの前で言ったことがありました。周りからは「それは井上さんの当たり前でしかない」といったことを言われ、考え込んだんです。

――確かにそれはショックですね。

井上さん:隠岐島前高校には全国から生徒が集まってきて、それぞれ生まれ育ってきた環境も異なります。だから、自分の当たり前が相手にとっての当たり前とは限らないわけです。このことに寮生活で気づけたのは大きかったと思います。

島内生と一緒に地域の課題解決をする授業「夢探究」で多様な価値観を認め合う

――隠岐に来て多様な価値観に気付けたという経験が、高校生活に役立ったことはありましたか。

井上さん:ソフトテニス部に入っていたのですが、試合展開が悪くなると露骨に不機嫌になることがありました。態度について高校1年生の時に顧問の先生に試合後に叱られたことがあって。どうすれば良いか考え、「応援に来てくれている人に応えられるようにしよう」と思うようになりました。苦しい試合が続いていても、最後まで笑っていようと心がけました。変わることで、試合でも逆転できるようになったのです。

――寮生活や部活動以外でも、成長のきっかけになる出来事はありましたか。

井上さん:隠岐島前高校では、3年間かけた「夢探究」という授業があります。1年生の時は「自分の価値観を知る」をテーマに、自分がどんな考え方をする人間なのかを振り返りました。初めて正解がない課題に取り組んだと思います。いつも話している友人の意外な側面を知ることができましたし、多様な価値観に触れる貴重な機会になりました。

――「夢探究」とはどんな授業なのでしょうか。

長船将太先生(以下、長船先生):3年間を通した授業である「総合的な探究の時間」における本校独自のカリキュラムです。2年生が活動の中心で、隠岐・島前地域の問題について考え、どうやったら解決できるのかというのを生徒達が考えます。1年生は2年次の授業に向けた準備、3年生はそれぞれの進路に向けた取組をしています。

井上さん:2年次のテーマは「島前地域に非日常空間を作り、日々の疲れをとって癒しを届ける」といったものでした。テーマに沿って、自分達で作った架けランタンを、学校の近くにある「レインボービーチ」という砂浜に夜に飾って、地域の人に来てもらうという企画をやりました。

――「夢探究」の授業を通じて何を得ましたか。

井上さん:他の生徒と議論する機会がありました。結果、私が島前高校入学のきっかけとなった先輩のように、相手の価値観を尊重しながら自分の考えを話す力が身についたと思います。4人1組となって行動をする機会もあるため、協働性も学べたと感じています。

長船先生:井上さんの代の学年は、島内生と島外生の割合が半々でした。4人1組のチームも、島内生と島外生の割合がなるべく1対1になるよう調整しています。出身が違っても価値観が似ていたら、自然に協働できる集団になれるのではないでしょうか。

井上さん:2年生の時には島の住人の方のもとに訪問する機会も多くありました。島内生からすれば、住人の方は何かしらの繋がりがある人ばかりでしたので、ものすごく頼りになりました。

――井上さん以外でも、相手の価値観を尊重する考え方を身に付ける生徒が多いのでしょうか。

長船先生:島外生は寮で共同生活をして、生活のリズムを合わせないといけません。それぞれのバランスを取る過程で、井上さんと同じような考え方を育む生徒は多いようです。隠岐島前高校には毎年約半数の島外生が入ってきますから、島内生にとっても多様な価値観を身に付ける良い機会になっていると思います。

――夢探究の授業をはじめ、島外生と島内生の間で感じる傾向の違いはありますか。

長船先生:島外生のほうが外の世界に対する知識や興味関心を持つ生徒が多いと感じます。島内生は地域の問題に強い関心を持つ生徒が多いですね。発言するのは島外生が多い傾向があるので、島内生が島外生に引っ張られる形で「自分達もそういう経験をしたい」と影響を受ける生徒が多いように見受けられます。

隠岐に住む人を好きになった

――寮生活や部活動、「夢探究」をはじめとする3年間の高校生活を、今後どのように生かしていきたいですか。

井上さん:将来は救急救命士になりたいと考えているため、資格が取れる専門学校に進学する予定です。高校生活では、自分の考えだけではなく相手の考えも大事にすることや、チームワークを学ぶことができたのではないかと思います。救急救命士も救急車の車内で4~5人がチームで活動すると聞いていますので、将来の役に立つと確信しています。

――隠岐や、島根県など地域に対する思いをお聞かせください。

井上さん:自然が豊かなところに行きたいという思いで隠岐に来ましたが、今ではこの土地が好きというよりも、お世話をしてくれた「島親(※1)」の方々や友達など、隠岐に住む地域の人が好きになりました。島親さんには赤の他人なのにすごくよくしていただきました。他の住人の方も、「島外生」と言ったらすごく気に掛けてくださって、温かくて優しい人ばかりで、感謝の念でいっぱいです。島から出ても、いろいろな人に島の魅力を伝えていきたいです。
※1 隠岐島前高校の島留学生一人ひとりにつく、島民によるサポーター


 

学校情報

隠岐島前高校外観

島根県立隠岐島前高等学校

 

〒684-0404
島根県 隠岐郡海士町 福井1403
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学校詳細 : https://shimane-ryugaku.jp/dozen/